<前編からの続き>
6.入院前日 髪を切る
数々の苦難を乗り越えついに手術前日。
我々は家族3人はみなとみらいにあるホテルへ到着する。
いよいよ明日か、そして、ついに明日か という気持ちが入り乱れる。
我が子が楽しそうにニコニコして電車に乗ったり、ホテルのベッドに寝そべる姿が我々に勇気をくれる。
本当に強い子だ。我が子に感謝をしつつ涙ぐんでしまう。
我が子の脂腺母斑は右側頭部。
医者からは手術前日には脂腺母斑から半径5センチ部分については0.1ミリまで髪の毛を短くしていて欲しいとの連絡を1週間前の検査時に伝達されていた。
2歳児の散髪を、しかも0.1ミリまでの短さを、対応してくれる美容院を探すが空きがない。
どこも予約いっぱいである。
みなとみらい駅近辺で探してようやく一店引き受けてくれるところを見つける。
本当にじっとしていられるのか、その心配を持ちながら3人で美容院へ。
「0.1ミリの坊主にしてください!」
きっと美容師さんも驚いたことだろう。わざわざ美容院でスーパーショートの0.1ミリをお願いするのだから。
美容師さんが言うには、0.3ミリまでならバリカンにアタッチメントがあるが、0.1ミリとなるとアタッチメントを外す必要があるので、動いたりしてしまうと危ない と。
なので、まずは0.3ミリで様子を見、それで我が子が動かずに行けそうなら気持ちよく0.1ミリまでやりましょう との作戦を打ち立て、散髪することに。
後頭部から可愛い頭にバリカンを入れていく。
意外にも順調である。バリカンの振動などでもっと怖がるかと思いきや、それなりにじっとしてくれている。
子供の気をそらすためにiPadを持って行った作戦が功を奏す。
「これはイケそうですね!0.1ミリにしてきましょう!」と更にバリカンを進めたところで様子が一変する。
これまで切った毛が、首へ、耳へ、目へ、鼻へ、そしてそれを更に顔をこすることによって広げてしまうという悪循環。
チクチクに耐えきれずに我が子の機嫌がどんどん悪くなっていく。
大声で泣き叫び、みなとみらいのおしゃれな美容室はすっかり子供の泣き声しか聞こえない修羅場へ。
妻もわたしも必死に顔を拭いてあげたり、顔に髪がかからないようにしてあげたり、iPadで注意をひいたりし、そしてなにより我が子が本当に頑張ってくれたおかげですっかりきれいなマルコメ君スタイルが完成した。
本当によく頑張ってくれた。
そして改めて脂腺母斑の部分を眺めてみる。
色はそれほど強くはないが、これが成長とともにこのまま大きくなるのであろう。
7.入院1日目
手術当日、我々は朝9時からくるように言われていたので 朝9時から入院手続きをするために病院へ。
この日から2泊3日の入院が始まった。
我が子がママと一緒でないと寝ることができないこともあり、原則は付き添いは禁止であったが病院側にお願いし、ママだけは付き添いさせてもらうことを許可していただいた。
おそらく、我が子が2歳で、歩いたり動いたり、基本は健康体なこともあって、看護師さんだけでつきっきりの対応をするよりは親にいてもらったほうが病院側にとってもよかったということから許可してくれたのであろうと思われる。
入院当日は、夜からの食事制限はあるもののそのほかは特に制限事項はなかった。
相変わらず元気いっぱいな我が子とたくさん歩き(もちろん病棟内のみ)、たくさん遊び、場所見知りもしない我が子の強さに関心しながらいつも通りの日常を過ごした。
我が子も不安を見せることなく、大きな声でよくしゃべる。
わたしはぎりぎりの面談時間の夜10時まで病棟にいて、我が子と妻との時間を過ごした。
妻は、一畳にも満たない狭くて堅い簡易ベッドを使って、この日は我が子と就寝。
(きっと眠れてはいない)
8.入院2日目(手術当日) そして手術室へ
そしてついに手術日当日。
本来の面会時間は朝10時からだが、手術日当日ということもあって特別に早い時間から病棟に入れさせてもらった。
わたしは朝7時半に病棟へ行き、手術は9時からだった。
我が子は既に起きており、朝から普段は見せてもらえないiPadを見て上機嫌である。
わたしの姿を見るなり「あ、パパきたー!」と相変わらず愛くるしい姿を見せてくれる。
がんばれがんばれ と心の中で強く念じ、「おはよう」 とあいさつをすると、やはり上機嫌に「ォハョー」とつたない口ぶりで返事をする我が子。
普段だったらとっくに朝ごはんを食べててもおかしくない時間で、食べることが大好きな我が子は普段だったらお腹がすいて不機嫌になるはずなのに、本当に頑張ってくれていた。
そして朝9時ちょっと前、我々の病室に担当の看護師が我が子を呼びに来た。
大層な担架を持ってきて、さあ手術室へ行きましょう と。
我々夫婦にも気合が入る。
我が子はIPadを携帯電話に持ち替え、相変わらず動画を見ている。
担架に乗ることなく歩いて手術室まで行くことが出来そうだったので、手を繋いでフロアの違う手術室まで歩いていく。
大人でも手術前だったら不安で歩いていくのもおっくうになるはずなのに、自分で歩いていくなんてなんて強い子なんだろう と親ばかなのかもしれないその姿に感動をしっぱなしのわたし。
手術室に続く廊下は、子供が好きそうなアニメのキャラクターが廊下に貼られていて、子供の気持ちが少しでも柔らかくなるように病院側が気を使ってくれている。
こういう体制にこの病院を選んでよかった、と自信を持たせてくれる。
そしてついに手術室の前へ。親が同行できるのはここまで。
ここからは手術をしてくれる手術チームに我が子を引き渡すこととなる。
こちらの病院では手術チームには皮膚科2人、麻酔科2人、手術看護師 数名 という体制で挑むようであった。
手術室前でママともパパとも離れる。次に再開するのは手術が終わってからである。
「ママとパパはここで一旦バイバイだよ、頑張ってね、あとでまた会おうね」と伝える。
この時にずっと期限がよかった我が子が初めてぐずる。
「ママ、ママ」 と。
そんな姿を見ると、何とも言えない気持ちで涙が止まらなくなる。
溢れだす涙をそのままにわたしは我が子を送り出す。
妻は、やはり強い。泣くことなく我が子を最後まで見送っていた。
「ママ、ママ」とこちらに来たがる我が子をよそに手術室のドアが閉まる。
しばらく我が子の「ママ」という声がまだ聞こえてくる。
しかし、ちょっとすると、、「あ、バイキンマン!」という声に変わる。
手術室のなかでアニメを流していて見せてくれているらしい。そのおかげで我が子は気持ちを切り替えることができたようだ。
なんて強い子なんだ。本当にえらい。
こちらもいつまでも泣いていられない、切り替えよう。
9.手術終わり 麻酔が切れるまで
手術担当医から院内でのみ通話可能なPHSを受け取る。
手術が終わったら、あるいは緊急の際にはご連絡します とのこと。
妻と私は、朝ごはんを食べていなかったので一緒に院内で食べることに。
食べ始めて40分もすると PHSが鳴る。
「無事に終わりました、成功です!」
危険度なんて少ない手術であり、最初から成功することは確信していた。
が、それでも、この一年間の苦労が報われたと、心から喜び、心から安心することができた。
我が子に早く会いたい。
そう思って、夫婦ともすぐに手術室前へ戻る。
手術が終わってからも、麻酔が切れるまで時間を置く必要があることは説明を受けていたため、ある程度待つことは予想していた。
手術室についてから20-30分くらいしてから我が子が出てきた。
手術室の向こう側で我が子の泣いている声はずっと聞こえていたが、聞こえていた声の通りやはり泣いて戻ってきた。
麻酔が切れずに、いつも通りの自分の体ではない違和感に泣いているらしい。
10時半に我が子は我々の下に戻ってきたが、そこから1時間はずっと全力で泣き叫び続けていた。
意識がもうろうとして、泣き叫んで、興奮して、しかも暴れる。万が一にも頭を打たせるわけにはいかなかったので、細心の注意で暴れる我が子を妻と交代交代で抱っこをしてやり、どこにもぶつけることがないようにバランスをとる。
それでもなお体を反らせて暴れる我が子。本当に大変な一時間であった。
おまけに我が子は麻酔の副作用で喉がからからだが、麻酔がきちんと切れるまで、気道に詰まらせてしまう危険性があるため水もお茶も飲ませてはいけない。
これを見ているのが本当につらかった。
我が子は片言で「ムギチャ、ムギチャ(麦茶)ちょうだいよー!なんでよー!(なんでくれないの)」と叫び続けるが、わたしたちもあげることができない。
一時間経過してから、ようやく落ち着いてき(眠くなってきたのか)、そして12時には大好きなご飯を食べ、ようやく普段通りの我が子に戻った。
手術後は脂腺母斑のあったところに大きなガーゼを貼って出てきた。
このガーゼは3日間はそのままにしておき、その後は自分たちで張り替えている(10日後に控えた抜糸までガーゼは貼り続ける)。
前日ぶりのごはんを元気に食べた後はそのまま疲れたのかねんね。
左手につけているのは血圧を測るための機械。
高すぎたり低すぎたりするとピーピーとなってナースステーションに聞こえるようになっているのだが、手術後の一時間は我が子は興奮しっぱなしだったので、これがずっとピーピーと鳴っていた。
そしてそれが当たり前すぎて、もはや誰も看護師はこなかった(つける意味あるのだろうか)。
そして、昼食後は今度は我が子が眠くなってくるから、血圧が低くなってピーピーなる始末。そのたびに寝かけた我が子は起きてしまう始末(つける意味あったのか?)。
後で看護師さんが、低い値でなる数値制限を低めてくれたおかげで無事に寝れた我が子。
寝て起きた後は、いつも通り遊んで過ごす上機嫌な我が子へと早変わり。本当に素晴らしい。
ちなみに麻酔の後はおしっこがでなくなるのだが、そのおしっこが再び出ることが確認できた後でこの血圧測定器とはおさらばできました。
10.入院3日目 (退院日)
そして翌日、その後の体調も問題ないことを医師、看護師さんにも確認してもらったあとで無事に朝9時に退院。
3日後にガーゼをはがしてみたが、このような状況で思った以上に傷は小さく済みそうである。
我が子が汗っかきで、痒そうにすることがあるのが心配。
たまに「いたい!」と言ってはいるが、終始気になってしょうがないというようには見えない。
11.統括
本当に悩んだ末の手術でしたが、我々は納得して進めることができました。
もし今現在悩んでいる方がいらしたら、この体験談が少しでも参考なればと思います。
手術から退院までのスケジュールとしては以下のようなものでした。
1日目 : 朝9時入院
夜9時以降は固形物を口にすることは禁止
深夜2時以降はミルク禁止
2日目 : 朝7時以降は水、お茶を含めて一切のものを口することが禁止
朝9時 手術室へ
朝9時45分 手術終了の電話
朝10時15分 手術室から退室(ここから泣き叫び)
朝11時15分 落ち着きを取り戻す
朝11時30分 水・お茶再開
昼12時15分 お昼ご飯
3日目 : 朝9時退院
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